2度目のモンゴル
5月22日(火)
昨年に続いてのモンゴル出張である。けっして料理が美味しいわけではないし、街並みが素晴らしいわけではないけど、何となく魅力を抱かせる国というのが私のモンゴルに対する印象である。日本でいえば、一昔前の昭和の雰囲気が残っている感じというか、建物は近代的なものが多く見受けられるが、人々の生活ぶりはまだまだ昔ながらの部分が色濃く残っている気がする。人は大陸的な大らかさをもっているようでいて、実はけっこう利己主義でもある。朝青龍がもてはやされるように、強い者が敬われ、少々の悪さ加減は大目に見るというところがある。今日もこんな場面に出くわした。狭い通りに車が一列になって縦列駐車されている。そこを両方から車が進んできた。当然、車通しが鉢合わせするわけである。日本であれば、どちらからともなく、これはまずいとばかりに道を譲るためにバックすることを考えると思う。ところが、モンゴルではまったく違う対応をするのである。どちらも譲るということはせず、にらめっこしたままどちらかが負けて引き下がるのを待つのである。今日の運転手は、片方は男だったけど、もう片方は若い女性だった。男女関係なく、頑として動かずただにらめっこするのみであった。通勤の途中だったので事の行方は見届けられなかったけど、しばらくは膠着状態のまま止まっていた。当然のように、後ろから車が来るわけで状況は益々悪くなっていく一方なのにである。モンゴル人の一面を見た気がした朝の出来事だった。
明日からはいよいよホスタイ国立公園にフィールドトリップである。何が待ち受けているのか楽しみである。ゲルでの宿泊も楽しみである。
5月23日(水)
快晴の中、ホスタイ国立公園内を車で行く。見渡す限りひたすら草原が続く光景である。空は広くゆったりと大きな雲が流れていく。いかにもモンゴルらしい風景である。この空を見に来ただけでもホスタイに来た甲斐があった。飯もなかなか美味いとなれば何も文句はない。それほど多くの時間は割けないけれど、何かこの国立公園で研究ができたらいいなと思う。
本日見た野生動物は、タヒ(モウコノウマ、今年生まれの子馬を連れている)、アカシカ、マーモット、地リス、ナキウサギ、ハゲワシ、ハヤブサなどであった。とくに、これから研究対象とする可能性の高いマーモットについては写真撮影も含めてじっくりと観察した。残念ながら、猛禽類の餌になっているので警戒心がとても強く車が近づくだけですぐに穴に入ってしまうので、至近距離で撮影や観察はできなかった。げっ歯類とはいえ大型だと7~8kgにもなるというからけっして小さい動物ではない。そのくらい大きいと何かと研究はやりやすいかもしれない。今回、前回以上にタヒを多く見た気がする。子馬も必ずいて繁殖は順調にいっているようである。一夫多妻型のハーレムを作って生活している。優位なオスがグループを統率しているのは明らかで、ひと際目立つ鬣からその存在を強くアピールしている。
当公園のプロテクションマネージャー(元動物担当の専門員)と今後の共同研究について話をした。まず、マーモットを使った冬眠研究についてである。今クマで行っている体温、心拍および活動量測定用のデータロガーをマーモットに埋め込んで、とくに冬眠中の体温等をモニタリングするのが狙いである。合わせて、生態的行動観察を併用し、行動と生理変化との関係を調べる。さらに、褐色脂肪組織の役割について分子生物学的に明らかにするというものである。また、もし血液や臓器が入手できるのであれば、それらサンプルでマダニ媒介性感染症に関する研究を行うことも検討する。これらの研究について先方に提案したところ、けっこう乗り気になってくれて、明日所長(ディレクター)が戻ってくるので、再度打ち合わせることとなった。もし実施するとなった場合、肝心なのはモンゴル生命科学大学からの参画である。できたら、学生の卒業論文研究などに位置付けられたら、JICAプロジェクトから外れないで進めることができると思う。学生指導という面を強調しつつ研究を進めることができればと思う。ガンゾリグさんを通じて、その旨はサンドルジさんにも伝えられた。
日中20度を超えていたと思うが、日がかげると(といっても日暮れは20時半)外は寒いくらいに気温が下がる。さすが内陸気候である。夜は、薪ストーブに火が入った。そうでないと寒くて寝れそうにない。薪ストーブで木々が爆ぜる音を聞きながらベッドに潜り込む。あと聞こえるのは外の風の音だけである。快適に夜中まで眠ることができた。残念なことに、昨晩飲んだビールで小便に行きたくなってしまった。外に出ると満点の星と思いきや、けっこう灯りが明るくて感激するほどではなかった。再度ベッドに潜り込み朝までぐっすり寝た。ゲルでの一晩を経験できたわけであるが、正直観光用のゲルなのでそれほどのインパクトはなかった。次回は生活されているゲルでの一晩を経験してみたいものである。
5月24日(木)
ホスタイ国立公園滞在2日目。朝方結構冷えてきたが、6時に薪ストーブに火を点けに来てくれたので、その後は快適に眠ることができた。といっても6時半には起きてしまったけど。午前中は、車を走らせて標高2000mを超えるシラカバ林まで連れて行ってもらった。元々ホスタイという名前はモンゴル語でシラカバから来ているらしい。それだけシラカバ林が豊富にあったらしいが、ここのところの温暖化に伴いシラカバ林が消えて行っているらしい。今日見せてもらったシラカバ林にもたくさんの枯れた木々が倒れていた。標高が高く北斜面には水が多く残っているらしく高木のシラカバも生育できるらしい。温暖化に伴って徐々に水が少なっているとのこと。逆にいえば温暖化の指標に使えるのだろう。しばらく散策をした後、ベースキャンプに戻る。昼食と支払いを済ませたが(1泊4食で72ドル)、所長は帰ってこない。ガンゾリグさんが電話連絡してくれて、ウランバートルでの仕事が長引いたらしい。ホスタイとウランバートルの途中どこかで落ち合うこととして帰途についた。途中の量販店のような店で落ち合い、マーモットの冬眠研究のことを話すととても興味深い研究だと好意的に受け取ってくれた。とりあえずプロポーザルを書いて提出すればいいとのことであった。帰ったら来年に向けて研究計画を立てようと思う。
おまけ モンゴルの食事情
私がこの1週間で経験したモンゴル食事情を綴ってみたいと思う。たったの5日間の経験談なので独断と偏見のみで書かれていることをご容赦ください。
朝食
1日目:今回は副学部長のアパートの一室をお借りして使わせてもらったので、基本的に自炊となった。近くのスーパーで買ってきたベーコンと卵でベーコンエッグを焼き、それをハンバーガー用のパンにはさんで食べていた。野菜がないのでフルーツで補完した。リンゴ、梨、蜜柑を試したが、一番美味しかったのは蜜柑であった。小粒ながら甘くて水分が豊富であった。ロシアか中国からの輸入品かもしれない。牛乳はとくに変わった味もなく問題なし。
2日目:基本的に前日と同様である。昨日は目玉焼きを失敗して、一つは潰れたし、一つは半熟だったので、パンに挟んで一口かじると黄身が垂れてきた。間違いなく美しい朝食ではなかった。一方この日は、固めに焼けたし潰れなかったし、美味しくベーコンエッグバーガーを食べることができた。
3日目:再び同じメニュー。いい加減飽きてきたけど、まだベーコンが1枚と卵が2つ残っていたので同じくベーコンエッグバーガーである。美味しいのでいいけど、そろそろ終わりにしたい。
4日目:ホスタイリゾート(ベースキャンプ)でのバイキング形式の朝食。とくに変わったものはなかたけど、ここで作っているというオランダ式チーズは美味しかった。
5日目:再度ウランバートルでの朝食である。残った卵を目玉焼きにして、パンに挟んで食べる。あとはカップ麺、ラベルには大きくキムチと書いてあるが、全くキムチの味はせずただ辛いだけのカップ麺であった。
昼食
初日:梅村先生に奢っていただいた。初日はいわゆる学食で、獣医学部の地下にあるテーブルが6つほどのこぢんまりとした食堂である。梅村先生が頼んでくれた定食はなかなか美味しかった。内容は、マトン肉の炒め物に野菜が3種類、それにお子様ランチ風のご飯の山が2つである。これで250円ほどというから安いと思うが、学生には高めなのかもしれない。そう多くの学生が食べているわけではなさそうである。
2日目:初日に続いて梅村先生に近くのウェスタン風レストランへ連れていってもらった。ロンドンパブというらしい。夜は近所のブルジョアマダムたちの憩いの場になっているという店で昼は洒落たモンゴル料理を提供している。我々が食べたマトン肉のシチューも洗練された味付けでとても美味しかった。生野菜のサラダなんか、日本のサラダと遜色ない。夜の顔も見てみたいと思った。
3日目:ホスタイ国立公園ロッジの昼食メニュー。一応フルコース仕立てで、サラダ(ちょっと辛めのドレッシングが妙に美味しい)、スープ(例によって羊のテール肉入り)、骨付きフライドチキンとフルーツ(なぜか缶詰パイナップル)。腹いっぱいになって満足。
4日目:同じくホスタイリゾートの昼食メニュー。例によってフルコース仕立てであるが、昨日とはメニューが違う(1週間は毎日メニューが変わるらしい)。メインディッシュは、例によって焼きマトンと野菜の定食。デザートはサクランボのジュース漬け?
5日目:街に出たついでにガンゾリグさんとサンダルジさんとレストランで韓国料理を食べた。骨付き牛肉と野菜とのソース炒めは、味が甘すぎていま一であった。
夕食
初日:時間がたっぷりあったので自炊に決めた。スパゲティなら問題ないだろうと思い、ベーコン、ホウレンソウにニンニクを買い込み、あとは麺をどれにするかで迷った。素直によくあるスパゲティ用乾麺を買えばよかったものを地元食材にこだわったあまり悲惨なスパゲティと相成った(スパゲティとはとても呼べない代物)。おそらく米でできている麺だと思うが、茹でてボールに入れておくとそのまま団子になってしまった。きっとうどんのように汁に入れて食べれば美味しいのだろうけど炒めるには不適当な麺だった。結局、団子の部分は取り除いて、ほぼベーコンとホウレン草のニンニク炒めとなってしまった。こちらで言うボーズ(蒸し餃子のようなもの)もボイルしただけでは美味しくなかった。
2日目:サンダルジさんが家に招待してくれた。前回、マトンの塩茹でをご馳走になったので、またそれだと困るな(臭いが家中に充満してそれだけで十分だったので)と思っていたら、軽くスープとボーズであった。美味しくいただきました(量は食べられないけどね)。
3日目:ホスタイ国立公園ロッジの夕食メニュー。サラダと焼きマトン肉定食、それにチョコレートアイス付き。十分美味しく満足満足。その後、ガンゾリグさんとビール2杯を飲みながら仕事の話。来年には、1頭でも2頭でもマーモットを捕まえて体温、心拍数および活動量測定用データロガーを埋め込むことで話が盛り上がった。興味を持つ学生さんを見つけることが先決であるが、きっと何とかなるでしょう。
4日目:宿に戻ってきて残り物のニンニクと冷凍ボーズを有効利用すべく、ジャガイモと玉ねぎとマトン肉、醤油、ブイヨンを買ってきてマトンニンニクたっぷりスープとボーズ。今回はボーズをレンジでチンしたら美味しく食べられた。1日目と打って変わってとても美味しくできました。満腹。
5日目:空港まで送っていただく途中で梅村先生にトルコ航空料理をご馳走になる。ショッピングモールのフードコートということで、それなりのシシカバブであった。ご馳走様でした。