野生動物学教室

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2022 年度を振り返って〜コロナ禍からの脱出?〜

2022 年度は、ようやくコロナ禍を抜けた感があったが、それでもなおその影響は大きか
った。個人的には、まさにコロナ禍に見舞われ、英国エジンバラ研修期間中に感染してしま
った。結果、7 日間の延泊を強いられ、けっこうたいへんであった。おまけに、エジンバラ
出張から 1 週間をおいてネパールに出張する予定だったので、間髪入れず(札幌に戻れず
成田から直行)2 つの海外出張を続けることになってしまった。3 年ぶりの海外出張はかつ
てない強行スケジュールとなった。それでも両方とも以前と変わらない風景を蘇らせてく
れる貴重な出張でもあった。
教育面では、2022 年度も 2 名の大学院生(神保美渚と Rajan Paudel)が博士の学位を取
得したことが特筆に値する。神保さん(現北海道総合研究機構の研究職員)は、2 編の投稿
論文を基礎論文として博士論文「ヒグマの採食生態:体毛安定同位体比分析で明らかと
なった高エネルギー食物の利用における地域・年齢・性別による差異」を書き上げ、昨
年 6 月に学位を取得した。一方 Rajan は、1 編の投稿論文を基礎論文として博士論文「ネパ
ールにおけるナマケグマ(Melursus ursinus):生態、遺伝的多様性及び人との軋轢」
を書き上げ、この 3 月に学位を取得した。お 2 人に心から祝意を表したい。Rajan はネパー
ルでの就職先が見つからず、引き続き教室に残って外国人客員研究員として研究を続ける
こととなった。大学院教育プログラムでは、引き続き One Health フロンティア卓越大学院
に参画し、坪田が運営委員会委員を務めた。大学院生も各々、講演会やセミナー、報告会、
インターンシップなど種々のプログラムに参画した。学部教育では、引き続き IVEP に参画
し、坪田がエジンバラ大学との国際共同教育、下鶴倫人准教授がザンビア大学との国際共同
教育に携わった。実際 8 月にはエジンバラ大学の学生 4 名を受入れ、3 年ぶりに北海道研修
ツアーを行った。一方 9 月には、同じく 3 年ぶりに 6 名の北大生をエジンバラに派遣して
研修に参加した。いずれにも坪田が同行した(エジンバラでコロナに感染)。
研究面では、2 つの科研(基盤研究(B)「ヒグマとシカを宿主とするマダニ媒介性感染
症−感染率を決めるのは宿主かベクターか?」と国際共同研究強化(B)「ネパールの希
少種に致死感染症は侵淫しているか?生物多様性ホットスポットの保全科学」いずれ
も坪田が研究代表者)を中心に研究を展開した。前者では、大学院 2 年生の清水広太郎が
博士論文研究として、北海道のヒグマとシカにおけるマダニ媒介性感染症の生態を探究し
た(寄生虫学教室中尾亮准教授が Co-supervisor)。とくに知床ルシャ地区で毎月シカを捕
獲してシカに寄生するマダニ種や年齢ステージ、寄生部位などの季節変化を調べた。今後
の分析結果が楽しみである。本プロジェクトの一環としてヒグマとシカに GPS 首輪を装
着して、感染様式に関わる行動についてデータを蓄積した((財)知床財団との共同研
究)。また、2022 年度から新たにアーバン野生動物における COVID-19 および他ウイルス
性感染症の感染状況について、国立環境研究所(大沼 学主幹研究員)および人獣共通感
染症国際共同研究所(人獣研;松野啓太准教授)との共同研究を開始した。大学院 1 年の
Anastasiia Kovba が本研究テーマで精力的に研究を進めている(人獣研の松野啓太准教授
が Co-supervisor)。他に感染症関係の仕事としては、環境省からの委託事業「ゼニガタア
ザラシの襟裳個体群に関する感染症調査業務」で、寄生虫学教室の中尾 亮准教授との共
同研究としてゼニガタアザラシの微生物叢とジステンパー感染状況について調べた。関連
して 6 年生の甘田 悠が宿主(アザラシ)DNA を排除して寄生性真核生物 DNA を検出す

る手法を確立した。一方後者では、大学院 2 年の Arjun Pandit が、「野生アジアゾウおよ
び他野生動物における結核の感染状況の解明」に向けて研究を進めている(鈴木定彦教授
ほか人獣共通感染症国際共同研究所との共同研究)。また、大学院 1 年の Rishi Baral がネ
パール・アッパームスタング地域におけるヒグマの生態研究に着手した。3500 メートルを
超える高標高地においてヒグマが何を食べ、どのような行動をとっているのか、主にカメ
ラトラップによって明らかにする予定である。なお後者の研究には、科研に加えて三井物
産環境基金と旭硝子財団助成金も活用した。昨年度で終了した知床ルシャ地域におけるヒ
グマの個体数推定とのプロジェクトの継続研究として中村汐里(6 年)がヒグマの血液、
体毛および糞を使って DNA メチル化判定による年齢推定法の確立という研究で課題研究
論文をまとめた(京都大学野生動物研究センター村山美穂教授と京都市動物園伊藤英之獣
医師との共同研究)。また、Joshaniel Tan が研究生(2 年目)として在籍し、来年度から開
始する重金属蓄積と食性との関係について研究の準備を行った(毒性学教室との共同研
究)。既に大学院試験にも合格し、この 4 月から奨学金を受給できることが決まってい
る。
佐鹿万里子助教が進めているアライグマの生態と感染症に関する研究も継続し、6 年の
南川未来がジステンパーウイルスの感染状況を解明して課題論文研究をまとめた。また、
5 年の伊藤萌林がアライグマにおけるマダニ媒介性感染症について精力的に研究してい
る。また、大学院4年生の Xiaofei Luo が、飼育下ツキノワグマにおける冬眠中の体温お
よび心拍数の変化ならびに内分泌制御について博士学位論文にするべくとりまとめを行っ
た(一部京都大学野生動物研究センター・木下こづえ氏との共同研究)。他機関との共同
研究として、東京農業大学山﨑晃司教授との足尾地域ツキノワグマの生態研究(科研基盤
研究(B))ならびに広島大学宮崎充功准教授との飼育下ツキノワグマの冬眠中の筋委縮耐
性に関する研究(科研挑戦的萌芽研究)に参画した。また、伊藤哲治講師(酪農学園大
学)、根本 唯助教(東京農業大学)および高畠千尋客員研究員の研究で、北海道のヒグマ
生態調査のために GPS 首輪を装着するために捕獲・麻酔・ハンドリングを坪田と下鶴が
担当した。
社会活動としては、坪田、下鶴、佐鹿および大学院生・学部生が、日本獣医学会、日本野
生動物医学会、日本哺乳類学会、日本生態学会などの学会活動に参加したほか、ヒグマの会
や日本クマネットワークなどの市⺠活動にも積極的に参加した。中村汐里は、日本獣医学会
と日本生態学会で各々優秀発表賞とポスター賞最優秀賞を受賞した(素晴らしい!)。さら
に、坪田は野生動物疾病学会(WDA)のアジア・パシフィックセクションのセクションチ
ェアとして会の活動を主導した。さらにあと 2 年間セクションチェアを務めることとなっ
た。さらに、教員 3 名はいくつかの講演会の講師を務めた。
以上、2022 年度もこれまで以上に活発な活動を行うことができ、着実に教室の実績を積
み上げることができた。最後になりましたが、教室運営の下支えをしていただいた事務員の
菊池理佳さんに感謝申し上げます。同窓の皆様のご活躍を祈念しております。ぜひ近況をお
寄せください。お待ちしています。

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